酒博士 小泉 武夫先生が語る“酒噺”
Vol.4「卵酒」

シェアする

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE

木枯らしが吹き、風邪を引きそうなほどの、厳しい寒さに震える毎日です。

でも、お酒造りにとっては雑菌の繁殖も少なくなり、発酵も緩やかに進みますから酒質も上がるので、厳しい寒さは、実はありがたいことなのです。ところで皆さんは、子供のころ風邪を引いたとき、お母さんが作ってくれた卵酒を飲んだ経験はありませんか?

私は小学三年生の冬、風邪を引いたとき初めて母が作ってくれた卵酒を飲んだのですが、あまりの旨さに徳利1本分をペロリと飲んでしまい「お替り!」といったら叱られた思い出があります。以来、風邪を引くのが楽しみになり、年に5、6回は故意に風邪を引いて卵酒を大いに楽しみました。

こういった、お酒に卵を入れて飲むという風習は、日本に限ったことではありません。韓国やヨーロッパの国々にも見られます。
エッグノックというカクテルは、ウイスキーやブランデーに卵と砂糖、それにシェリー酒などを加えて作るのですが、美味しい上に発汗を促す効果もあるので人気があります。

ここで、すべての国に共通していることは、卵酒は風邪治療のために飲まれているということです。日本でも、元禄時代の食物全般について書かれた『本朝食鑑(ほんちょうしょっかん)』に、卵酒は「精を益し、気を壮にし、脾胃を調ふ」と、すでにその効能が謳われています。

さらに日本のように熱燗で卵酒を作ると、温かい酒ほど胃や腸でのアルコールの吸収が早くなりますから、血管も広がり、体の隅々までカロリーの高いアルコールが行き渡るので、すぐ温まるのです。

お酒を飲むと真っ赤な顔になる方は、皮膚の毛細血管が広がり、良くなった血流が浮き出て赤く見えるというわけです。このアルコールと一緒に、栄養価の高い鶏卵に多量に含まれている、肝臓の機能を上げる効果のあるアミノ酸の結合体・ペプチドや、血糖値を上げ、肝機能を高める効果のある砂糖も体に吸収されます。つまり卵酒には、体を温める効果と、高い栄養価が含まれ、しかも肝臓の機能が高まるため体力的にも強さが増し、風邪に効くと考えられます。しかも、風邪だけではありません。疲れたときや、なかなか眠れないときなどにもおすすめです。

作り方は簡単。日本酒に砂糖を好みで入れ、沸騰するまで温めます。ここに鶏卵を割り、黄身を加えて箸でよくかき混ぜ、温かいうちに飲むのです。一口すすると、その柔らかな甘さと共に、子供のころの懐かしい思い出が、ほのぼのと蘇ることでしょう。

文:発酵学者 小泉武夫

  • Vol.1 「麹(こうじ)の発見と、麹の名前」
  • Vol.2 「甘酒」
  • Vol.3 「酒粕」
  • Vol.5 「屠蘇(とそ)」

\ キーワードから探す

日本酒を楽しむへ