淡路島 由良漁港 11時30分
兵庫県淡路島の東南に位置する由良(ゆら)漁港。その沖にある成ヶ島(なるがしま)が自然の防波堤になっているため、港内はとても穏やかです。取材で訪れたのは7月下旬、よく晴れた爽やかな夏の日。港にはのんびりした雰囲気が漂っています。その港が、午前11時30分から始まるセリで一気に活気づきます。高級魚のハモやタイ、メバルにタコ、エビ、タチウオと様々な魚種がトロ箱といわれる専用の箱に仕分けされ、ずらりと並べられます。次々とセリ台に運ばれる魚を吟味しながら、仲買人たちは、木の札に値段を書き込み入札し、次々とセリ落としていきます。
多くの魚が集まるセリの風景
様々な魚がトロ箱でセリにかけられます
魚種が少ないと言われる夏場でも充分にバラエティに富んでいるのは、由良の漁の多様さに理由がありそうです。
由良を代表する「底びき網漁」と「一本釣り漁」を行う、2人の漁師にお話を伺いました。
底びき網漁 中本貴之さん
底びき網漁の朝は早く、中本さんは早朝3時半から網を入れます。40分ほど船で引っ張り、網に入った魚を引き上げる。セリが始まる11時頃までに10回近くこれを繰り返します。
底びき網漁をする中本さん 息子さんが一緒に手伝います
「ハモ、タコ、アナゴ、車エビ、タチウオ・・・なんでも入る。網を入れている間にとれた魚を選別する。シラサエビや赤エビが入ると拾うのに忙しくて、休憩する時間もないよ。」
最高級と名高い「由良の黄金ハモ」
夏場の本命は「ハモ」。関西の高級料亭でハモは夏の風物詩として欠かせない食材です。上質な淡路島産のハモの中でも、由良のハモは最高級と評価されています。旬は6月から8月。特に産卵期が近づいたハモは黄金色に美しく色づいて「黄金(こがね)ハモ」と呼ばれ珍重されます。
美しい由良の黄金ハモ
「漁師やっててハモがとれるこの時期が一番面白い。今年はハモの値段が良かったしな。大阪湾でとれるハモはとくに美味しい。見た目は一緒だけど料理したら分かる。骨が違う。淡路のハモは骨が柔らかい。本当にうまいよ」
とれたての黄金ハモと中本さん
高級料亭で扱われるハモは1キロ未満のものが主流ですが、由良ではさらに大きいハモがバンバンとれます。実は、ハモは大きいほうが身がふわっとして、味もいいと言われています。
アレンジ色々!ハモ料理
中本さんは料理が得意で、ハモの骨切りもお手のもの。おすすめのハモ料理を伺いました。
「湯引きが一番好き。ポン酢や梅肉で食べます。“ハモすき”もうまい。ハモのアラからとった出汁に淡路島の玉ねぎを加えて、身と野菜を入れたスキヤキ風です。ハモの卵は雑炊にするといいね。味付けは塩だけで。ハモカツもうまい」
魅力的なハモ料理
自身でとったハモを食べるのも大好きな中本さん。仲間とバーベキューをするときは肉を焼かずに、ハモとアナゴを焼き、さらに赤ウニをのせるとか……豪華すぎます!
最後に漁師の魅力について伺いました。
「漁師は魚をとったら、すぐに自分に返ってくる。それが一番いいとこやな。
最近は魚の値段もいいし、時化(しけ)ると、とれる魚の種類が変わったり、とれる量も減ったりするけど、港全体でも同じやから、その分一匹あたりの値段も上がるしな。」
一本釣り漁 藤堂昭人さん
数をとる底びき網漁と対照的な、一本釣り漁を行う、藤堂昭人さん。
漁協関係者も「由良で一番の漁師」と口を揃える名人です。
一本釣りする藤堂さん
一本釣りといえば、カツオの一本釣りが頭に浮かびますが、藤堂さんは釣り竿は使いません。使うのは、なんと右手の人差し指。
「竿で釣るのは漁師じゃないやろ?」
笑顔で語る藤堂昭人さん
人差し指で水深70mの糸を手繰る
釣り竿もリールも使わず、巻き上げも指で手繰ります。
「触ってみ」と促され、人差し指を触らせてもらうと、硬くてカッチカチでした。
「漁師20年以上してるもん。素人の指なら絶対切れると思うわ。この手が頼り。
重り5グラムで水深70m、80mの底を探って魚をとるんよ。絶対みんなとれないと思う」
藤堂さんの人差し指 ものすごく固かったです
藤堂さんの一本釣り漁は午前3時半に出て、8時には戻ります。底びき網漁の船が11時を目安に戻るので3時間以上の早上がりです。それは、魚をいち早くセリに出すため。7月末のこの日の水揚げは、アジ30尾、タイ4尾、メバル8尾。
「セリに早く出したほうが単価が高くなる。こだわるのは品質。数じゃない。
一本釣りは魚に傷がつかないし、モノは絶対にいい。信用がついてるから、俺の魚は高く買い取ってもらえる」
実際、一本釣りされた藤堂さんの魚は仲買人の信頼が厚く、高値で取り引きされます。
1匹につき1,000円以上の差が付くことも。中でも、仲買人たちが首を長くして待っているのが藤堂さんが釣る重さ1㎏を超える巨大なアジです。
藤堂さんが釣った1キロ級のアジ
激レア! 1キロ級の巨大アジ
「ごっつ大きいで。このアジは深い所にいて小潮の間しか釣れない。まだブランドになってないから、ただの真アジやけど、豊洲で2万円になる。その辺の飲食店には出回らないから貴重なアジやねん」
その日に最も美味しい魚をとりにいくのが、藤堂さんの流儀。
由良の海を知り尽くしているからこそ、できる漁です。
「季節に何の魚がうまいか、どこでとったらうまいか、どこに何の魚がいるか、
全部頭に入っとるから、できるねん。100円でも高い魚を釣りにいこか、と考えとる」
由良で生まれ育った藤堂さん。父親も一本釣り漁師で、物心ついた頃から釣りをしていたそうです。釣り方も父から伝授されたのかと思いきや…‥‥
「親父には針のくくり方もおそわったことない。見よう見まねでダンゴ結びから始めて、気が付いたらできとった。漁師はゴッツ奥深いで。親父は伝説の人じゃ。誰も釣れない時でも釣るねん。海に魚を飼ってるみたいだって言われとる。あの人はすごいわ。
親父を超えたら引退や。超えることはまずないけど。親父と2人で4時間でタイ300尾釣ったことがある。あれが自己最高やな」
エピソードも伝説級!
「自信もっていうけど、俺の魚は絶対一番やわ。アジなら炙りで食うて。
バーナーで炙ると、脂でバチバチいうもん。アジフライにするなよ。
アジフライなら俺の魚やらん。俺の魚はアジフライNGやで!」
脂たっぷりアジの炙り
由良の海は美味しい魚の宝庫。底びき網漁の中本さん、一本釣り漁の藤堂さん、方法は違えど、2人は海と魚を知り尽くしたまさにスペシャリスト。これからも見事な魚を届けてくれることでしょう。
公式YouTubeでも淡路島の魅力を配信中
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