鹿児島県薩摩半島南部の指宿市に位置する児ヶ水(ちょがみず)漁港で、定置網漁を営む川畑友和さん。全国漁協青年部連合会(JF全国漁青連)の会長です。2022年に就任、全国を飛び回って活動しています。
「会長になってから半年で飛行機に60回以上乗りました。その間は休漁ですが、漁を優先し、会長の仕事をパスするのは僕の性分ではないんです。人と繋がれるのはこの立場あってこそ。多くの方と会って、漁業の未来に繋がる機会を作れることが楽しいんです」
漁青連会長は元会社員!
祖父から代々、漁師の家庭で育った川畑さんですが、漁師を継ぐ気は全くなかったとか。高校は普通科を卒業。職業能力開発短期大学の原子力科を専攻し、原子力関係の会社に就職しました。会社員として働きつつも、なぜか海との縁は切れずにいたそうです。
「原発って海のそばにあるので、地元の漁師さんとの交流もあるんですよ。青森の施設に赴任した時は、ホタテの貝剥きを手伝ったりしていましたね。そのうちに親父と漁師をやりながら、趣味のマリンスポーツをするのもいいかな、と思いはじめたんです。」
25歳で実家に戻り、漁師の世界へ。ところが、いざ漁師になってみたら……。
「海がおだやかな時はもちろん漁に出ますが、時化(シケ)の時は漁に出られないので、代わりに網のメンテナンスをします。マリンスポーツをする暇は全くありませんでした」
深夜から定置網を行う川畑さん。船の灯りとヘッドライトを消すと真っ暗に
なぜうちの魚は安いのか?
児ヶ水漁港での定置網漁。季節と共に魚が変わり、春は赤カマス、アオリイカ、真鯛。夏はイサキに、シマアジ。秋口からカンパチと、魚種にも恵まれています。
ところが、経営はいまひとつ。
「うちの獲った魚を市場に持っていっても、品質が悪いと言われて高値が付かないんです。 何とかして魚の価値を上げないと先がないと思いました」
父親に訴えても埒が明かず、喧嘩の毎日。覚悟を決めた川畑さんは、他の漁師に相談。「魚の締め方」を学びました。
「漁師は自分のやり方が一番だと思っているんです。当時の親父は55歳。今さら魚の締め方を教えてくださいとは、言えないんですよね。自分は26歳だったので、神経締めを教えてくださいって飛び込んでいけたんです」
神経締めを行うことで魚の鮮度や品質が向上。市場でも高値がつくようになったそうです。
「魚は締め方で味がガラッと変わるんですよね。魚を食べるお客さんを喜ばせないと、魚の値段は上がっていかない。そこに気づいたんです」
藻場造成は漁師の義務
漁青連会長の仕事に漁。忙しい日々の中で、川畑さんが続けているのが「藻場造成」。
海藻が集まる「藻場」は魚の住み家や子育ての場ですが、最近は藻場が消失する、「磯焼け」が問題になっています。川畑さんは「アマモ」という海藻を植えて、藻場を造成する活動を続けています。
「アマモは種子植物で、5月に花を咲かせて、おしべとめしべが受粉して種を作ります。種が砂地に落ちて、秋に芽を出し、成長して、また種を作る。そのサイクルを助けるためにアマモの種を仕込んだマットを供給したり、アマモを食べる魚などから守る活動をしています」
ウェットスーツで藻場造成を行う川畑さん
海中で成長するアマモ
アマモを魚から守るネット
藻場は魚を育むだけでなく、海に溶け込む二酸化炭素を吸収して光合成します。
吸収される二酸化炭素を「ブルーカーボン」と呼び、地球温暖対策として注目されています。
「漁師は漁業権で魚をとるなら、義務も果たさないといけないと思っています。
魚を増やす取り組みは漁師の義務です。漁船のエンジンは二酸化炭素を排出しますが出しっぱなしは良くないと思うんです。そんな問題を解決するのが、藻場なんです」
川畑さんはこれまでに、およそ7ヘクタールもの藻場を作りました。それは東京ドームを超える広さです。
先輩漁師の理解のきっかけはYouTube?!
2005年にスタートした、藻場造成。始めた当初は、なかなか理解してもらえなかったといいます。
「藻場造成に取り組みましょうと呼びかけたら、先輩漁師から“10年後、生きていないかもしれないのに何で俺達がやらなきゃいけないんだ”と言われました」
その一言で先輩漁師たちと川畑さんら若手漁師との間に、溝が生まれてしまったそうです。そんな険悪ムードを変えたのが、なんと「YouTube」でした。川畑さんは2022年の3月から、定置網漁の様子や藻場造成の取り組みを配信し始めました。
坪内知佳JF全国漁青連会長ともう一つの顔 YouTuberとしての川畑さん
坪内知佳JF全国漁青連会長ともう一つの顔 YouTuberとしての川畑さん
「地元の漁師やその家族が見てくれていて。そのおかげもあって、先輩方が僕を見る目が変わってきたんです。そこで、これまでにやってきた事を改めて説明しました。『藻場が魚に食べられて磯枯れを起こしているんです。動画にあったように、藻場を作ることで、僕らの漁場も豊かになるんですよ』って。今では『今度、新しいプロジェクトを始めますよ』と話すと“おお、いい事だ、頑張れ”と言ってくれるようになりましたよ。YouTubeを始めて良かったです」
脱炭素社会と漁師の新スタイル
漁師 そして海の未来を考え続ける川畑さん
川畑さんは「藻場」が漁師の減少を止め、新しいスタイルを作ると考えています。
「漁師はおよそ30年間で60%も減っています。これ以上漁師が減ると、沿岸の維持、管理、保全もできなくなって、悪い方向にしか進まないと思います。そこで重要になるのが、新しい形の漁業・漁師なんです。その中心にブルーカーボン・オフセットを利用した藻場造成が生きてくるんじゃないかなと思っています」
「ブルーカーボン・オフセット」という言葉、初めて聞かれた方も多いかもしれません。
経済活動や生活を通して排出された二酸化炭素などの温室効果ガスを、植林・森林保護・クリーンエネルギー事業(排出権購入)などの削減活動によって、直接的、間接的に吸収しようとする考え方や活動の総称がカーボン・オフセットです。
「ブルーカーボン・オフセット」はこれを海で行うものです。二酸化炭素を削減しきれない企業が、藻場の保全活動を支援。藻場が吸収した二酸化炭素をクレジット化して、売り買いするという仕組みです。
「藻場だけでなく、新規ならワカメなどの海藻養殖でも、ブルーカーボンがクレジット化できます。ワカメの売り上げとブルーカーボンの両方のお金がもらえるようになるんですよ」
漁師は魚を売るだけでなく、ブルーカーボンでも収入を得られる時代に。
川畑さんは、藻場造成のスキルや知識を持つ漁師を増やすことが急務だといいます。
「漁師が減った今、使ってない磯場やアマモが増やせそうな場所は全国に沢山あります。
企業は海で活動したくても、漁業権があるから出来ないんです。漁師を増やし、スキルを身につけてもらって、これから来るであろう、企業とタイアップしていくための足場作りをしないといけないと考えています」
これからの漁師、漁業の未来のため、今日も川畑さんは全国を飛び回ります。
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