「泉ダコ」のブランド化に奔走した大阪府漁連。その取り組みは大阪の漁業を一層活性化させました。「泉ダコ」のブランド化に奔走した大阪府漁連。その取り組みは大阪の漁業を一層活性化させました。

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萩大島

更新日:2018/5/21

突然ですが、みなさんは大阪で漁業が行われていることをご存知でしょうか。
「工場が建ち並ぶ大阪の海で、魚が獲れるの?」と思われる方も少なくないかもしれません。しかし実際には大阪府には13の漁港と24の漁協が存在し、今も漁業を行っています。そのほとんどが大阪府南部に集中しているので、北部に住む人の認知はあまり高くはありません。

かつて大阪には"東洋一"とうたわれた浜寺海水浴場をはじめ多くの海水浴場があり、大阪の人々にとって海は身近に触れ合える場所でした。ところが高度成長期に入って、沿岸部の工業化が進むなどで環境が悪化。海水浴場も次々と閉鎖に追い込まれ、いつしか「大阪の海は汚い」というイメージが定着してしまいました。
しかし下水処理施設の整備や産業排水に規制をかけるなど、さまざまな取り組みを行うことで、昭和の末期ごろから水質は徐々に改善。今の大阪湾には多くの魚がすんでいます。

実は漁業が盛んな大阪。地元の魚介類を「タコ」でアピール

水質は改善されても、大阪の魚介類の知名度が全国的に低いことに変わりはありませんでした。大阪の魚介類が安全で美味しいことをいかにアピールするか。それは大阪の漁業関係者にとって課題ともいえるものでした。そんな折、平成18年に特許庁が地域団体商標制度を導入します。大阪の魚介類をアピールするため、大阪府漁業協同組合連合会(以下、大阪府漁連)が中心になって、大阪府南部の泉州地域で馴染みが深いタコで商標を取り、ブランド化する取り組みに手を付けました。
タコのブランド化に奔走した大阪府漁連の内藤 晃 事業課課長は、当時の経緯をこう振り返ります。

「大阪湾には紀伊水道、明石海峡から魚が入ってきて年がら年中、魚がいるんです。種類も豊富で、およそ230くらいいます。魚の質も良いのですが、やはり知名度は低かったですね。私も出身が京都なので大阪で魚が獲れることや、漁業がこんなに盛んだとは知りませんでした。タコをブランド化する動きは、特許庁が地域団体商標制度を導入した平成18年から始めました。」

商標を取得するための動きを進め、書類を取り揃えて提出。しかし、特許庁が最初に下した判断は「登録不可」でした。商標を取得するためのポイントはいくつかあり、そのなかで特に重要なのが「一定の地理的範囲で、ある程度有名であること」。
つまりは、近隣地区の人々に知られたものでないといけないのです。泉州のタコは地元ではお馴染みでも、近隣府県ではほとんど知られておらず、「特許庁からも認知度が低過ぎると言われました」と内藤さん。ここから内藤さんたちの長い奮闘が始まりました。

「当時のチームは5〜6人。大阪府は当然ですが、近隣の京都府や奈良県、兵庫県でスーパーの軒先を借りて店頭販売をしたり、NHKや大阪府が主催するイベントにも頻繁に参加させてもらいました。あちらこちらといろんな場所に足を運び、かなりの回数を重ねましたね」

店頭販売やイベントで積極的に行ったのは、まずは食べてもらうこと。食べてもらえれば、泉州のタコの美味しさを必ずわかってもらえる。その自信が内藤さんたちにはあったのです。

「海流が速いところにいるタコは、身が締まっていてコリコリっとした食感。一方で泉州では比較的浅い海域に生息しているので、ここで獲れるタコは身が柔らかいのが特徴なんです。そこを特にアピールしていました。素材としてもバツグンで、タコの旨みが存分に詰まっています。あまり手を加えることなく、シンプルな調理法で食べていただくと、その美味しさがより分かってもらえる。漁師の奥さんに、ボイルしたタコをスライスして塩を混ぜたごま油につける食べ方を教えてもらって、店頭販売ではそういう食べ方の提案もしました。そうすると次に同じ場所に行ったときに『あれ、美味しかったわ』という声が聞かれるようになってきたんです」

着手から4年をかけて、ついに「泉だこ」のブランド化が実現

当初は「明石のタコなの?」とか、「大阪のタコって大丈夫なん?」という声も多々あったそうですが、地道な取り組みを続けるうちに認知が広まり、最初の申請から4年後の平成22年に泉州のタコは「泉だこ」として、タコとしては全国で初の登録認定を得ました。特許庁が発行している「地域団体商標ガイドブック 2018」によると、出願から登録までの平均期間は1年3ヶ月。「泉だこ」はその何倍もの時間がかかったことに、当時の内藤さんたちの苦労が偲ばれます。

「商標登録されるまではやっぱり長かったですね。でも途中でやめようと思ったことはなかったです。それなりのお金も使ってきましたしね。もったいないから、最後までやっちゃおうと(笑)。大阪府が推進する『大阪産(もん)』にも登録させてもらって、さらに『泉だこ』の認知が広まってきていることは実感しています」

「泉だこ」の定義は、泉州沖で獲れたマダコをボイルしたもの。認知を広めているこの地元の宝を用いた今後の将来展望について、内藤さんはこう語ります。

「最終的には大阪湾全体で買い取りができるような形を作るのと、難しいところですが、ブランド力による製品の価格向上を目指したい。それと『泉だこ』を使った加工品が今も何種類かあるんですけど、新たな商品作りであったりを進めていきたいと思っています。さらに今後、大阪から『泉だこ』に続くブランドの魚介類が生まれてくる可能性もあるでしょう。実際に高級魚や大衆魚などから、具体的な魚種を何種類かピックアップしています」

長い時間をかけた「泉だこ」のブランド化はこうして果たされ、次なる大阪発のブランド魚の構想も控えています。では「泉だこ」がブランド化されて、現場の漁師さんにはどんな影響があったのでしょうか。それを伺うべく、生産の現場を訪れてみました。

「泉だこ」のブランド化によって、現場の漁師にどんな変化が?

泉南地域にある漁港のなかで、マダコの水揚げがトップクラスなのが佐野漁港。ここは泉佐野漁協が管轄しています。漁港に着いて周囲を見渡すと、大きな工場や高速道路などの建築物が目に飛び込み、沖合には関西国際空港に発着する飛行機が望めます。ここで20年にわたってタコ漁を行っている、高倉 智之さんを訪ねました。

「僕がやってる漁は、ツボとカゴ。冬場はツボ漁で、水温が上がってきた5月くらいから12月いっぱいまではカゴ漁やね。ツボやカゴで漁をしている漁師はここでは僕だけやけど、このあたりでも、ほかの漁協には今でもかなりいてますよ」

佐野漁港で主に行われているのは底曳き網漁です。その網にかかってタコも揚がりますが、ツボやカゴで獲れたものとは質が違うと高倉さん。

「底曳きやと30分、1時間って海の底で網を引っ張るからね。いつ網にかかったかわからんし、引っ張ってるあいだに揉まれるから、どうしても痛んでしまうことはあるわ。でもツボやカゴで獲るタコはそれがないから、痛んでないねん」

そのかわりに、ツボやカゴでの漁は手間がかかるそうです。

「タコって実は、ものすごいキレイ好きやねん。ツボやカゴがちょっとでも汚れてたら入らへん。だから、道具はしょっちゅう手入れをしてやらんといかん。それにああ見えて、意外と賢いんよ。1回入ったツボやカゴから逃げたら、逃げる知恵をつけよる。だから仕掛けるポイントやエサも替える。同じエサばっかり使ってたら飽きるのか、ごっついグルメやで(笑)。漁は昔ながらのやり方そのままじゃなくて、年々いろいろと考えてやってる。タコの気持ちになって、どうしたら入るのかなと、いろいろと苦労してやってるよ。タコと知恵比べやで。駆け引きをするのも楽しいね」

「泉だこ」がブランド化されて漁師にも確かな手応えがありました。

「『泉だこ』になってからはタコの単価が上がったね。僕らにとってはありがたいことやね。漁の最盛期は昔は夏場やってんけど、今は時期がズレて9月ごろ。その時期に獲れる1日の量は、去年の最高では240kgくらいかな。すごい量やと思うわ。それでも20年前と比べると半分どころか、1/10くらいになってるのと違うかな。昔は8月の頭から盆にかけて、すごく大量に揚がったんよ。量が多過ぎて、タコの値段がつけへんときもあった」

漁獲高が減っていることは事実。ですがブランド化されて価値が上がったことと、逆に漁獲高が減ったことによるプラスもあるそうです。

「20年前と比べて、タコが獲れる量はもう全然違う。海の環境が変わったせいか、だいぶ減ってきた。昔は船中にタコが這い回って、大変やったわ。そやけど今は獲れる量が少ないから、そのぶんの時間を道具の手入れにまわせる。20年前のことを思ったら量は減ったけど、そやからエエ値になっているところもあるんちゃうかな。今は1年を通して、タコの値段が一定で安定して良くなってるしね」

「泉だこ」がブランド化されたことによって、大阪の魚介類は安全で美味しいという認知が広まりつつあります。漁の最盛期は夏で、気温の上昇とともにタコが港を賑わせます。地元の人には当たり前の存在だったタコは、地域の活性化に大きな力を発揮したのです。

泉佐野の名物料理!タコ飯

泉州で揚がるタコは、穏やかで比較的浅い海域に生息し、身が柔らかいのが特徴です。今回は、その泉州のタコをボイルした「泉だこ」を使った地元で定番人気の料理をご紹介します!
タコを生から茹でるのはちょっと手間がかかりますが、あらかじめボイルされた「泉だこ」ならとっても簡単。是非お試しください。

タコ飯のレシピ

材料

  • ・米5合
  • ・泉だこ400g
  • ・鰹の白だし75cc
  • ・醤油30cc
  • ・みりん20cc
  • ・にんじん1/2本
  • ・ごぼう1本
  • ・うすあげ適量
  • ※「泉だこ」と調味料は、米の量に合わせて調整を。

作り方

お米をよく洗い、水に浸けておく。
(炊く前に米に吸水させておくと美味しく炊きあがります。夏は30分、春秋は45分、冬は60分が目安です。)

「泉だこ」の足を細かく切る。小指の第1関節くらいが目安。

にんじん、ごぼう、うすあげを細かく刻む。

炊飯器に、浸水させて水を切ったお米を入れ、2.3.の材料を入れる。

調味料を加えて炊飯。
水加減は普通に白米を炊くのと同じ分量。

炊きあがったら、全体をさっくりと混ぜ合わせる。

器に盛って出来上がり。

是非皆さん、試してくださいね。
次回の後篇では、多くのマダコを水揚げする泉佐野漁協の取り組みをご紹介します!

今回訪れた漁港へのアクセス

佐野漁港
住所
〒598-0051 大阪府泉佐野市新町2丁目5187番101
URL
大阪府漁業協同組合連合会 http://www.osakagyoren.or.jp/index.html
泉佐野漁協 http://izumisano-gyokyou.com/
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