更新日:2018/6/25
前篇では、「泉だこ」(泉州沖で獲れたマダコを茹でたもの)としてブランド化されるまでの道のりと、現場の漁師の声をご紹介しました。今回の後篇では、泉南地域にある漁港のなかで、マダコの水揚げがトップクラスの佐野漁港を管轄する泉佐野漁業協同組合(以下、泉佐野漁協)を訪ねました。
佐野漁港を管轄する、泉佐野漁協の特徴と取り組み
泉佐野漁協は昭和20年に設立され、70年あまりの古い歴史を持ちます。この港の特徴を、代表理事組合長の三好正広さんはこう語ります。
「ここでの漁は底曳き網がメイン。ほかにはアナゴやタコを獲るカゴ漁、タコツボ、刺し網、潜水などもありますけど、8割は底曳き網やね。船着き場のすぐ隣にセリ場があるのも特徴かな。ウチはセリが昼の2時からと早くて、朝も出港する時間が5時30分と決まってる。朝の5時から夕方の5時まで漁をすることはないし、この大阪に24の漁協があるなかで、いちばん短い時間でやってると思う。週休2日で休みもちゃんとあるから、ほかのとこの漁師さんとは働き方が違うね」
午後1時を過ぎるころから続々と漁船が帰港し始め、午前中は静かだった港がにわかに活気づきます。漁師たちは港で待っていた家族らと獲れたばかりの魚を船から降ろし、リヤカーに積んでセリ場へと運び込んでいきます。
午後2時になると港にサイレンが鳴り響き、セリが始まります。「売り子」と呼ばれるセリの進行役の声が響くなか、箱に入れられた魚が次々とセリ台に上げられると、ひと箱につき10秒もしないうちに競り落とされます。
「ここで揚がった魚の行き先のほとんどは、この近隣か大阪の魚屋さんとか寿司屋さん、スーパーやね。だから、この近所の人はみんな小さいころからここの魚を食べてますよ」
全国的に漁師の高齢化が叫ばれていますが、それはこの泉佐野漁協も同じ。60~70代になっても船に乗り続けている漁師は、ここにも多くいます。その一方で、若い漁師が比較的多いことも特徴。そんな若い世代が中心になって、漁港を盛り上げる取り組みも行われています。
「ウチの漁協はヨソに比べたら、若いコがいるほうですよ。青年会もあるしね。彼らが中心になって地曳き網体験をして、その網で揚がった魚でバーベキューをしてもらったりとか、イベントもいろいろとしてます。漁のことを知ってもらい、魚と触れ合ってもらうのが目的。今の時代は、実際に魚を獲るところを見る機会が少ないのと違うかな。スーパーで売ってる切り身が、魚の姿やと思っている子どももいるらしいしね。地元の小学校と協力して、学校のイベントとしてやってもらったりもしてます。網が揚がったら、子どもらは喜んでくれてますね。こういうイベントは、今後も続けていきたいと思ってます」
港に隣接してあるのが、漁協が運営する「青空市場」。鮮魚店を中心に約30の店舗が軒を並べ、1階に寿司店、2階に食事ができるレストランがあります。
午後2時過ぎになると競り落とされた魚が市場内の鮮魚店に並び、それを求めて多くのお客さんが詰めかけます。一般の消費者だけではなく、寿司店や和食店、イタリアンやフレンチ料理店のスタッフも、ここに足を運びます。食のプロが、大阪の魚を認めているのです。
「関西のあちこちからお客さんが来られてます。観光バスで来られる団体さんもいてますし、関空が近いからか、最近は外国人の方もよく見ますね」
すぐ隣には「海鮮焼市場」もあり、ここでは市場で買った獲れたての新鮮な魚で、バーベキューを楽しむことができます。青年会による地曳き網体験のイベントなど、漁協が観光にも力を注いでいることが伺えます。
「とはいえ、やはり市場に買い物に来られる方がメイン。買い物に来て、ついでにセリを見ていく人が中心です。観光はまだもうひとつという感じですけど、そこもなんとかしていきたいと思ってます」
漁獲高の減少や漁師の高齢化。漁業の問題を前向きなパワーで乗り越える
大阪湾には多くの河川が流れ込み、そのことによって栄養分が豊饒にもたらされ、古くは「魚庭(なにわ)の海」と呼ばれるほど豊かな海でした。水質が改善された今はそのころの海に戻ってきているのかと思いきや、そうではないようです。
「大阪湾は好漁場と言われるけど、潮の流れも変わったし、魚が獲れる時期もズレるようになってきた。昔は魚を拾うのが忙しいくらい獲れてました。それと比べたら、魚の量はすごい減りましたね。それにあわせて漁に出る船も減って、以前は底曳き網で80隻くらいあったのが今は50隻弱です。環境の変化にいかに対応していくかも、これからの課題やね」
泉佐野漁協としても、何もせずに手をこまねいているわけではありません。漁業体験や市場の運営に加え、海に水産資源を取り戻す取り組みも行っています。
「たとえば、ウチではカニがよく揚がるんです。でも子持ちのカニを、そのまま売りに出したらカニ全体が減ってしまうから、再放流するようにしてます。稚魚を放流する事業もしてますけど、なかなかすぐに結果が出るものではないからね。けど漁業が我々の仕事やから、地道でも続けていかなアカンことやと思ってます」
大阪の漁業は漁獲高の減少や漁師の高齢化といった、日本の漁業全体と同じ問題を抱えています。ですが、今回お話をお伺いしたみなさんの言葉ひとつひとつには熱が込められていて、エネルギッシュな印象を受けました。「泉だこ」のブランド化で大阪の魚介類の認知が広まりつつあることを追い風に、前向きなパワーでこの難局を乗り越えて進んでいくはずです。
- 住所
- 〒598-0051 大阪府泉佐野市新町2丁目5187番101
- URL
- 大阪府漁業協同組合連合会 http://www.osakagyoren.or.jp/index.html
- 泉佐野漁協 http://izumisano-gyokyou.com/