JF全国漁青連元会長が語る定置網漁と日本の未来「日本人は未利用魚を食べる時代がくる」 JF全国漁青連元会長が語る定置網漁と日本の未来「日本人は未利用魚を食べる時代がくる」

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長崎県 野母崎(のもざき)

更新日:2023/3/10

長崎県長崎市の南部の「蚊焼(かやき)港」。ツンと突き出た長崎半島の先端部、「野母崎(のもざき)」とも呼ばれる地域に位置する港です。
長崎県は、全国トップ3に入る漁獲量、魚種に関しては全国1位を誇ります。そんな長崎の漁業を支える「蚊焼港」で定置網漁を営む、平山孝文さんを訪ねました。平山さんはJF全国漁青連の元会長です。

漁に向かう中 インタビューに答える平山さん

定置網漁師 平山孝文さん

平山さんが小型定置網漁で狙うのは、ブリ、タイ、カンパチ、スズキ、タチウオなど。カンパチは20キロの大物もとれます。
「20キロ級のカンパチは、魚屋さんが大きすぎてさばけないので、買い手がつきにくいんですよ。でも大物がとれたら、それは嬉しいですよ!」

環境にやさしい小型定置網漁

定置網の引き上げ 人力で行うので大変な作業です

平山さんは小型定置網漁は環境に優しい漁だと話します。

「定置網漁は一日中魚を追いかける漁ではないので、船の燃油をあまり使わないんです。特にこの辺りは漁場が近いので、最短で向かい操業して帰ってこれるので、二酸化炭素をあまり出しません。そもそも定置網は入口が出口にもなっているので、100匹魚が入ったとして、とれる魚が20匹。網に入ってきた魚の2割しかとれないと言われているんですよ。網の目の大きさを変えることで小さい魚も出ていくので、魚にも優しいと思います」

タモを上げている平山さん タチウオが大漁でした

九州でトップの漁獲量を誇る長崎県は、定置網漁にも協力的です。

「長崎県の水産部が調査船を持っていて、海底を無料で調査してくれます。魚は海底山脈に沿って泳いでくるんですが、その魚道を調べて、どんな角度でどういう風に定置網を設置したらいいか相談にのってくれます」

魚類養殖で借金 定置網1本に絞る

今では定置網漁のみを行う平山さんですが、過去には刺し網や魚類養殖も行っていました。魚類養殖では借金を作るという苦い経験もしています。

「養殖していたのは、マサバ、カワハギ、ハマチ、タイ。サバは1年で失敗、カワハギは3年やって借金をめちゃめちゃ作りました。養殖は出荷までに最短で2年、エサ代はかかるし、毎日投資なんですよ。 結果が出るのが早くても2年後なんで、待ちきれない。僕の性分には向いてないようです」

過去の失敗も明るく笑い飛ばす平山さん。定置網1本に絞ってから漁師が楽しくなったといいます。

「定置網は毎日結果が出て、毎日お金が入ってくるんで、僕に合ってます。定置網は初期投資はありますが、経費や燃油代もそんなにかからず、かかるのはほとんど人件費だけです。大漁も楽しいですが、市場の人たちとやりとりして、魚を出荷する戦略を自分で練って、それがズバッとハマって魚の値段が高くついた時が本当に楽しいんです」

活魚化で魚の価値を高める

養殖を営んでいた時から使用する生簀 この生簀が活魚化を支えます

魚類養殖を経験していたからこそ、平山さんに出来たことがありました。それは、魚類養殖の生け簀を再利用した「活魚化」です。

「一般的に定置網漁はとれた魚をそのまま出荷しますが、うちは魚を海上の生け簀で保管し生かしておき、『この日は高く売れる』という日に出荷するんです」

平山さんが長崎魚市場に売った魚

平山さんは長崎魚市場に毎日電話をして、その日とれた魚を報告しています。その際に相場を確認して、翌日出荷する魚を決定します。生け簀から魚を選別してタモですくい出し、神経締めの作業をするのは22時。人が眠りにつく時間に作業する理由は「効率化」です。

通常は冷やし込みをした後に、魚をサイズや種類ごとに選別し、箱詰めをします。一方、平山さんは締めた魚を氷水に入れたまま、トラックで魚市場まで走ります。運転中に冷やし込みが終わるため、時間を短縮できます。
また、市場に専属の担当者をつけて、選別と箱入れを自身で行う手間も省いています。箱の在庫を持たずに済むメリットもあると平山さんは話します。

午前3時に魚市場から帰宅。それからわずかな仮眠をとって、朝6時には、また漁へ。いかに魚を高く売るかを追求した結果、このサイクルが最適と考えたそうです。なかなかタフな平山さんのスタイルは、簡単には真似出来ないのかもしれません。

ヒモ男が漁師の道へ

漁師になって数年後の30歳頃の平山さん まだ自由人の雰囲気が残ります

28歳で漁師になるまでの平山さんは、愛され上手な自由人でした。工業高校を卒業後、就職した会社を1年足らずで辞めた後、職を転々とします。無職のまま短大生の彼女の部屋に転がりこみ、養ってもらったことが、平山さんのヒモ生活の始まりです。ただ、彼女のアメリカ留学が決まり、ヒモ生活は半年足らずでピリオド。

「アメリカについてきますか?と言われて、アメリカが怖くてついていけなかったんです」

どこにいても「お兄ちゃん面白いから」と気に入られてしまう平山さん。夜の街でボーイとして働いたり、バーを開業してシェイカーを振る日々を過ごした後、ステップアップのために東京へ行くも、上京3日目で出来た彼女の家に転がり込み、2度目のヒモ生活に突入。

「逆らわない、率先して動く、マメな連絡。ヒモで身についたスキルですね」

そんな平山さんも父親に「事業を拡大するから帰って来い」と促され、帰郷。ただ、漁師を継ぐという決断までには時間が掛かりました。

「俺は親父に勝てなくて、もう怖くて怖くて。正論で負けるんですよ。口答えできなくなって、でも、うっぷんが溜まって逃げるの繰り返し。いい加減ちゃんと継げといわれて、継いだのが28歳。」

災害ボランティア 漁師に出来ることがある

JF全国漁青連のワークショップの様子

45歳でJF全国漁青連の会長に就任した頃、日本で災害が多発しました。平山さんは、災害時に漁師に何ができるかと考えたそうです。

「例えば水害が起きた時、漁師は船が動かせるし役に立てるんじゃないかと。ずっと考えていました。それを、メンバーに問いかけてワークショップをしました。船は孤立集落を助けに行くことが出来るんです。普段から自然相手に仕事しているので、農業、漁業従事者は災害時スキルが高いんですよ。機械が壊れても船のエンジン関係は少なからずみんな知識を持っているはずですし、そのスキルを上手に使えたらなと思ったんです。」

ワークショップでは共感した会員の漁師たちから、活発な意見が出ました。「漁師の災害ボランティアへの取り組み」は海外で開催された国際会議でも発表され、各方面から取材も受けました。

「漁師の仕事はもちろん魚をとることですが、それだけでなく、水害など有事の際に、我々だから力になれることがあることを考えていて欲しいんです。普段から考えていれば、いざという時に動けるじゃないですか」

漁師同士、横のつながりを大事にしたい

漁師仲間と談笑する平山さん

そしてもう一つ、平山さんが目指したことがありました。「漁師のネットワーク作り」です。

「ある時、温暖化の影響で環境が変化してきて、北海道でブリが大漁だったんです。でも、北海道ではブリの大漁が初めての経験だったから、上手に売ることができなかった。他の漁場ではブリをとって高値で売っているので、そのスキルを共有できないか、という思いがありました」

前例のない魚が突然大漁となることは、各地方の港で起きている事案でした。そこで平山さんは、各港が持つスキルを共有するためのネットワーク作りを目指しました。

「隣同士の港だとライバル心で教えたがらない技術も、県が変わることでみんな喋ってくれるんです。自慢したくなるんですよ、漁師って。それだったら知ってる、教えてやるよってみんな教えてくれるんで、それをきっかけに仲良くなって欲しかったんです。仲良くなったら困ったときに電話して聞けるし、横のつながりを強くしたかったんです」

日本人は未利用魚を食べる時代が来る

JF全国漁青連元会長が考える漁業の未来

漁師同士の横のつながりから得た情報で、「未利用魚」の販路開拓にも取り組んでいます。

「長崎ではニーズがなく売れないのに他県では売れる魚があるんです。例えば、アイゴ。野母崎では夏場、とんでもない量のアイゴがとれるんです。でも、長崎では食べる習慣がないから売れない。出荷しても赤字になるのでみんな出さない。アイゴは海藻を食べるので駆除対象魚なんです。でも沖縄では、塩水で魚を蒸す「マース煮」にして多く食べられるメジャーな魚なんです。和歌山県でも需要があります」

平山さんが未利用魚に力を入れている理由には、日本の将来を見据えた危機感もあります。

「世界的にも、二酸化炭素を減らそうと家畜の数を制限する動きがある中、この先、家畜の消費量が制限されたら、たんぱく源を魚に頼るしかない。そうなると、日本の魚を海外が取り合う事になるはずです。海外の方が高く買うから、日本人は最終的に未利用魚を食べなきゃいけない時代が来るかもしれないんです」

日本人の魚離れは年々進んでいます。しかし、牛肉や豚肉の価格が手が出ないほど高騰したら、私たちは何を食べるのでしょうか。おなじみの魚が海外に買われ、日本の店先に並ばない日も遠くないかもしれません。

「だから、今のうちに未利用魚の食べ方を覚えてほしいんです。アイゴも美味しいんですよ。俺はアイゴの刺身が好き。次にフライ。カツカレーのカツの代わりに、アイゴのフライを乗っけたアイゴフライカレーはとっても美味しいです!」

これからの漁師に必要なこと

平山さんは2人の子供に、漁業に関わってもらいたいと考えています。

「今大学生の娘には経営者に、息子には漁師を継いでもらいたいんです。そのためには、大学で経営学を学び、一度一般企業に就職し、世の中を知ってビジネス感覚をつけて欲しいです。その上で、魚市場とのコミュニケーションや、自分を表現する語彙力がないと外にも発言が出来ないので、そのスキルも身に付けてほしい。一次産業には、補助制度も色々ありますが、自分で理解できないと補助も受けられません。自分で考えて、発言できる漁師になって欲しいんです」

最後に平山さん自身の未来について伺うと、
「俺は今も未来も、変わらず楽しくやっていますよ!自分が楽しいだけではなく、周りや漁師の未来も前向きに考えて切り開いていきたいです」と笑顔で語ってくれました。平山さんなら日本の漁業も明るい未来へ導いてくれるかもしれません。
取材のご協力、ありがとうございました。

公式YouTubeでも長崎の魅力を配信中

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今回訪れた漁港へのアクセス

為石漁港(野母崎三和漁業協同組合三和支所)
住所
〒851-0405 長崎県長崎市為石町4709-2
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