40キロ超の巨大クエを一本釣り!野母崎(のもざき)、樺島(かばしま)港の釣り名人が広めたい ひと手間かけた魚の旨さ 40キロ超の巨大クエを一本釣り!野母崎(のもざき)、樺島(かばしま)港の釣り名人が広めたい ひと手間かけた魚の旨さ

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長崎県 野母崎(のもざき)

更新日:2023/3/24

長崎県は漁獲される魚種が全国1位。その数、なんと250種と言われています。長崎魚市場には、タイにヒラメ、ブリにカンパチなど、高級魚がずらり!
中でも、高値で取引される魚が「クエ」です。他県の市場では、まずお目に掛かれない“幻の魚”。大きな頭と大きな口を持つ、迫力満点のビジュアルですが、「クエを食べたら他の魚がクエん!」と言われるほど美味なのです。

希少な理由は成長の遅さ

綺麗なクエ これで3〜4キロとクエの中では小ぶり

クエが希少とされるのには理由があります。まず、成長スピードが遅いこと。クエは1年で15センチほどしか成長しません。単価の高い10キロ以上になるまでに15年。全長1メートル以上、体重40キロ以上の超大物となると、実に30年以上という年月を生きています。
また、クエは警戒心が強く、そもそも釣り上げるのが難しい魚。ましてや、何年も修羅場をくぐりぬけた超大物クエとなれば、簡単に釣れるものでは決してありません。

港のクエ釣名人 小川龍喜さん

クエと船上で格闘する小川さん

野母崎の南に位置する樺島で一本釣りでクエ漁をする漁師、小川龍喜さんはこの界隈では一番の腕前と評判です。

「クエは天候とやり方によっては毎日何本かは釣れます」と小川さんが言い切ると、インタビュー中、横にいた漁師の平山さんから「そんな事が言えるのは龍喜だから!普通は釣れないですよ」とツッコミが入りました。

クエがいるのは浅いところで、20m~30m。深い所で100m。小川さんの意識は海の底の針にあります。

「根魚で警戒心の強いクエは穴の中にいる。穴の近くにきた餌をバッと食べて、すぐ穴に戻る。穴に入るとエラを広げてそこから絶対出てこないんで、針を掛けた瞬間の瞬発力が勝負ですね」

長崎のクエ漁は延縄(はえなわ)漁が主流。数で勝負と、100本、200本と針をつけて行います。糸も強いので、クエが岩の穴に隠れても強引に引っ張りだせます。そんな延縄漁に対し、1本釣りでクエを狙う漁師は長崎県南部では小川さんただ1人です。

クエも鯛も!使う竿はたった1本

小川さんの竿とリール

狙う魚によって竿やリールを変えるのが一般的ですが、小川さんは年間を通して1つの道具しか使いません。

「他のクエ漁師さんや遊漁船で釣る人達から見たら、ふざけてんのか、と言われるような「細い竿」と「リール」で釣ります。糸も、本格的に狙う人の3分の1の細さを使っています」

釣り名人ならではの奥義かと思いきや、予想外の答えが返ってきました。

「楽なんですよ。ちゃんとしたクエ狙い用の竿とリールって値段も高いですし、1日それを持って釣りするとなると、腕がもたないんですよね。だったら1本の竿で年間通して、どれだけ旬の魚を釣れるかを考えたほうが良いなと思ったんです」

小川さんは愛用の竿で、2021年1月3日に40キロ級の巨大なクエを釣り上げ長崎魚市場の初競りに華を添えました。

釣り上げた40キロ級のクエ

しかし、当時はコロナ禍。高級料亭などの需要が減った影響でクエの価格が落ち込んでいました。40キロ級のクエが、初競りにもかかわらず1キロあたり2200〜2300円という超安値でした。

「関西の知り合いに、関西だったらコロナ禍でも最低でも1キロ1万円はつくはずと言われました」
小川さんが語る顔には、悔しさがにじんでいました。

火を通しても身が柔らかいクエ鍋

クエは生まれた時は全部メス。体重が8キロを超えると性転換してオスになるそうです。美味しいクエは、オス化した10キロ以上と言われているそうですが、そのことを小川さんに尋ねると、

「オスもメスも、どっちも、とても美味しいですよ!クエは火を入れても、身がふっくらなんです。中でも一番美味しいのはクエ鍋ですね。頭や骨から出る出汁が本当に旨さを引き出します。仲間内でクエを楽しむ時も、刺身や天ぷらなど色々振る舞いますが、クエ鍋が一番みんなに喜ばれます。みんなスープが美味しいと言ってくれます」

36歳で転身 1本釣り漁の道へ

小川龍喜さん

小川さんの実家は、樺島港に面した水産加工会社。実家を継ぐつもりでいましたが、父親の「一度、外の仕事を経験してほしい」との想いから、高校卒業後は捕鯨船の乗組員として丸3年働いた後、とび職、塗装、基盤工場、珍味の対面販売など様々な仕事を経験し、36歳で帰郷しました。実家を継ぐつもりで戻ったものの、従業員不足など様々な理由から、小川さんは漁師の道へ。36歳、漁師としては遅咲きでしたが釣りの腕はメキメキと上達しました。

「人一倍、沖に出てひたすら釣っていましたから。ちょっとシケている時にも、他の船が出てない時にも沖に出て、短期間に凝縮して経験を積んだことが、結果的には上達の近道だったと思っています」

インタビューに同席した漁師仲間の平山さんは、小川さんを「センスと努力の人」と言います。

「センスを持っていても、努力をしない人が多いと思います。そんな中、龍喜はずっと努力してるんです。だからこそ、このエリアで一番の釣りの腕前なんです」

熟成させて魚の旨味をアップする

釣った魚を船上で活きじめにする小川さん

小川さんは魚を出荷する前の「処理」にこだわっています。

「以前、道の駅にある店舗に釣ったままのブリを捌いて大きな切り身で出したら、お店の人に『ちょっと処理の仕方が甘いな』と言われたんですよね。それが悔しくて、そこからもっと、魚を美味しくする処理をしていこうと思いました」

水産加工業を営む実家の強みを活かし、殺菌海水で血抜きするなど工夫を重ねました。処理のスキルが上がると、それに比例して評判も上がったそうです。

「地元の新鮮な魚を食べている人にも、『こんな魚食べた事ない』と感想をいただきました。地元の方々は、魚は『しめてすぐ食べる』が普通だったんですが、そこに、僕は全国的に広がり始めていた『熟成』処理した魚を出したら反応がすごく良かったので手応えを感じました」

魚は死後硬直が解ける時に、アミノ酸や旨味成分が増していきます。魚を冷やしながら時間を掛けて処理すると、旨味がどんどんと増していきます。それが魚の「熟成」です。小川さんは、自ら長崎市内の飲食店に声を掛けて、直接販売も始めました。

「僕は釣りが大好きなんで、釣りで一回楽しさを味わうんですよね。そこから今度、魚の処理をしっかりして、飲食店に卸した時の反応が、また楽しいんです」

野母崎の魚が好きだから流通させたい

日暮れまで釣りをして、魚の処理を22時まで行い、早朝4時に起床、前日処理した魚をパック詰めして、小売店に出荷。小川さんの毎日はとてもハードです。そこまで魚の処理にこだわる理由は?

「僕は食べ物の中で刺身が一番大好きなので、まず、自分が美味しく食べたいんです。自分が美味しかったら、周りの人も絶対美味しいだろうなって思うから、処理をしっかりやることにもつながります。実は全国的に見ても、長崎の魚は値段が安いんです。野母崎の魚が美味しいというのを少しでも知ってもらえたら、もしかしたらいつかは価値が上がるんじゃないかな、と思っているんです。コツコツですが釣った魚の説明や捌き方をSNSにアップしているのも、その想いからなんです」

小川さんは今年、2022年から始めた「遊漁船」で、釣り客が釣った魚の買い取りも考えています。

「例えば、良い時はブリが1人10本釣れる。だいたい全部お客さんが持って帰るんですけど、普通に考えて一家では全部食べきれないのではと思うんです。そんなときに僕が魚を買い取れば、お客さんは魚釣りを楽しんで、お土産も持って帰って、乗船料も安くなる。あとはこちらでしっかり魚をしめて売れば、お互い損はないはずです。わずかな一歩かもしれませんが、お客さんが釣ったブリも含めて、各地に野母崎の魚をたくさん流通させて、美味しさを知ってもらいたいんです」

長崎、そして野母崎の魚を最高に美味しい状態で、多くの人に食べてもらいたい。そのための挑戦や努力は惜しまない。野母崎の一本釣り名人・小川さんの熱い志に心打たれました。

公式YouTubeでも長崎の魅力を配信中

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今回訪れた漁港へのアクセス

樺島漁港(遊漁船 はつみ丸)
住所
〒851-0405 長崎県長崎市為石町4712-5
https://www.hatsumimaru.com/
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