むじょかさば
鹿児島県の最北端。大小の島々に囲まれた長島に位置する薄井漁港は、干満の差がなんと最大4メートル。潮流が早く、年間平均水温19度という、養殖に最適な環境に恵まれています。
たくさんの養殖場がある薄井漁港
そんな長島には、お刺身で食べると絶品の「むじょかさば」があります。むじょかさばの「むじょか」は鹿児島弁で「わが子のようにかわいがる」という意味。その名のとおり、長島の若手漁師が愛情を込めて育てています。
「サバがかわいくて、わが子よりサバをみている時間のほうが多いです」
と語るのは、むじょかさばを養殖している、山下泰士さんです。
船を操船する山下泰士さん
山下さんは、商業高校卒業後、祖父の営む養殖業を継ぎました。
「担い手がいなかったので、僕がやるぞと、小学校6年生の頃から決めていました。長島は海がきれいだし、船の運転が好きだったんです」
赤潮が転機 むじょかさば誕生へ
転機は14年前の2009年。長島を赤潮が襲いました。
「当時は赤潮の知識がなかったんです。今は漁港と連携して、赤潮がきそうになったら生け簀の上部に網を縫い付けて、網の水深を深くしたり、エサを止めるなどの対策をします。赤潮で魚が死ぬ原因は呼吸困難なんです。魚は満腹になると呼吸がしにくいんです。当時はブリの養殖をしていましたが、全体の7割を失いました。十数年分の被害を抱えたようなものでした」
ところが、この赤潮被害が「サバの養殖」を始めるきっかけになります。
サバの養殖生け簀
「赤潮の時に、仕事がなかったのでまき網漁の仕事を手伝っていたんです。そこのまき網漁師さんが獲ったサバを実験的に養殖していたんです。サバは赤潮の中でも元気に泳いでいたそうなんです。その方に「一緒にやってみないか」と誘われて、サバの養殖を始めました」
ブリとサバの養殖工程はほぼ同じですが、ブリは出荷まで1年半かかるのに対して、サバは最短で9カ月。短期間で出荷できるのも魅力でした。
「最初、ブリの感覚でエサをやっていたら“脂が乗りすぎてる”と言われました。今はエサの研究をして、黒糖ポリフェノールを成分に加えています。ポリフェノールの抗酸化作用で血合いが変色しにくく、鮮度も落ちにくいんです」
「むじょかさば」の刺身盛り
現在は、6つの生け簀に5万匹ほどのサバを養殖しています。生け簀に入れる時は120グラムほどの幼魚が9カ月で500グラムほどに成長。「むじょかさば」は、身がモチモチしていて、天然魚より身が厚いのが特徴です。
そして、なんといってもお刺身で食べられるのが、養殖サバの醍醐味。脂がのっているのに、さっぱりとした味わい!臭みは全く感じません。
むじょかさばをPR 輸出を目標に
生産者である山下さんも自ら営業してむじょかさばをPR
「むじょかさば」は、現在5つの養殖業者があり、連携しています。出荷は通年。豊洲市場をメインに、多い時には1日1600尾を出荷しています。居酒屋、外食産業との直接取引など得意先も多く抱えていますが、軌道に乗るまでには、5年以上かかったといいます。一番大変だったのは、営業だったと山下さんは話します。
「自分たちはこれまで魚を作るだけだったので、営業として何を話せばいいのか分かりませんでした。むじょかさばのどこがいいの?と聞かれても、全く答えられませんでした」
慣れない営業に悪戦苦闘しながらも、百貨店などのイベント、商談会に参加し続けるうちに営業トークも磨かれていったといいます。最初に採用してくれたのは、北海道の寿司チェーン店。注文数70尾からのスタートでした。
「注文を受けたら、絶対に無理とは言わない。がむしゃらに頑張りました。続けるうちに、ここならやってくれるという感じで、信頼を得られたのかなと思います」
山川さんの1日は、早朝5時半から出荷作業がスタート。日中は餌やり、夕方5時に帰宅します。1週間、休みなし。
「今は休みを削ってでも、尾数を増やしたい。今は国内消費だけなので、ゆくゆくは海外に輸出したいですね」
むじょかさば、可愛いですか?と山下さんに聞くと、満面の笑みで、
「ええ、もう可愛くて仕方ないです。本当に我が子そのものです」
と答えてくれました。可愛い我が子をより多くの人に送り出す。山下さんの夢はまだまだ広がります。
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