日本酒のおいしさを科学する 白鶴酒造の研究が解き明かす、
味わいの本質

白鶴酒造では、長年培ってきた酒造りの経験に最先端の分析技術を組み合わせ、「日本酒のおいしさとは何か」を科学的に解き明かす研究に取り組んでいます。これまで感覚的に語られることの多かった日本酒の味わいを成分レベルで捉えることで、より安定した品質と、白鶴ならではの酒質の実現を目指しています。

本ページでは、白鶴酒造が取り組む代表的な研究として、「“まる”の押し味の解明」、「仕込み水中の微量金属が酒質に与える影響」の2つを紹介します。

1.“まる”の押し味を科学的に解き明かす

「押し味」とは、日本酒を飲み込んだあとに感じられるコクや厚みのある余韻のことです。これは灘酒の特長的な味わいとして知られており、白鶴酒造のロングセラー“まる”にも、しっかりとした押し味があります。

白鶴酒造では、製造条件や一般成分がほぼ同じでありながら、押し味の強さが異なる日本酒に着目しました。これらを対象にGC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析計)を用いたノンターゲット分析を行い、酒に含まれる多数の成分を網羅的に調べました。

その結果、単一の成分ではなく、多くの成分のバランス(成分プロファイル全体)を見ることで、官能評価による押し味の強さを高い精度で説明できることが明らかになりました。

この研究から、押し味は一つの成分で決まるのではなく、複数の成分が複雑に関係し合って生まれる味わいであることが、科学的に示されました。

  • PLS回帰分析による押し味スコアの予測値と実測値の相関グラフ
  • 押し味スコアと相関の高い成分ピークの一覧表

2.仕込み水中の微量金属が酒質に与える影響

日本酒の味わいを支える重要な要素の一つが「水」です。白鶴酒造では、仕込み水や割水に含まれる微量金属(無機元素)が、酒質にどのような影響を与えるのかについても研究を行っています。

由来の異なる水を用いて同じ原酒を割水し、貯蔵中に生成する老香成分であるジメチルトリスルフィド(DMTS)がどれだけ生成しやすいか(DMTS生成ポテンシャル)を比較しました。その結果、使用する割水の違いによって、DMTS生成ポテンシャルが大きく変化することがわかりました。

さらに、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析計)を用いて水中の無機元素を網羅的に分析したところ、水に含まれる元素の組み合わせ(元素プロファイル)から、DMTS生成ポテンシャルを予測できることが明らかになりました。

これらの結果から、水中の特定の微量金属が、日本酒の香味の安定性や品質に影響を与える可能性が示されました。

  • 各種割水によるDMTS生成ポテンシャルの比較棒グラフ
  • DMTS生成ポテンシャルの予測値と実測値の相関グラフ

科学と伝統の融合が、次の「おいしさ」を生む

白鶴酒造の研究は、伝統的な酒造技術を大切にしながら、その価値を科学的に裏付ける取り組みです。得られた知見は、品質の安定化や新たな酒質設計に活かされ、より豊かな日本酒の味わいへとつながっています。

白鶴酒造はこれからも、「日本酒のおいしさ」を真摯に追求し、科学と伝統の融合によって、次の時代の一杯を創り続けていきます。

論文

  • ノンターゲットGC/MSによる清酒の「押し味」のモデル化、生物工学会誌、96、234–239(2018)

    玉田佳大、樺島文恵、櫻井昌大、徳井美里、山下伸雄、窪寺隆文、明石貴裕

  • Analyzing the relationship between the inorganic element profile of sake dilution water and dimethyl trisulfide formation using multi-element profiling., J. Biosci. Bioeng., 127, 710-713(2019)

    玉田佳大、徳井美里、山下伸雄、窪寺隆文、明石貴裕

学会発表

  • Correlational analysis of volatile components profiles obtained by GC×GC-TOFMS and sake taste "Oshi-aji",日本生物工学会(2016)

    玉田佳大、西村泰央、大東功承、西本遼、浅井拓也、山下伸雄、明石貴裕

  • 割水用水の元素プロファイルを用いた清酒のDMTS生成ポテンシャル予測モデルの構築、日本醸造学会(2017)

    玉田佳大、山内隆寛、山下伸雄、窪寺隆文、明石貴裕