発酵素材による機能性の探求 日本酒造りの知見を、健やかな未来へ
白鶴酒造では、長年にわたり培ってきた発酵・醸造研究の知見を基盤に、日本酒およびその副産物が持つ機能性に関する研究に取り組んでいます。発酵素材に含まれる成分や、微生物のはたらきを科学的に解析することで、酒づくりの枠を超えた新たな価値を見いだし、食品や各種素材への応用を目指しています。
1. 酒粕の機能性研究
酒粕は、日本酒製造の過程で生じる発酵副産物であり、酵母や麹菌由来の成分に加え、米由来のタンパク質や脂質を豊富に含んでいます。白鶴酒造では、こうした酒粕の特性に着目し、その生理機能を活かしたさまざまな素材への応用研究を進めてきました。
その研究の中で、高圧条件下においてアミラーゼやプロテアーゼといった酵素を作用させた酒粕(酒粕圧力酵素分解物)を調製したところ、遊離アミノ酸量が大きく増加することが確認されました。さらに、表皮角化細胞を用いた増殖作用試験を行った結果、酒粕圧力酵素分解物を添加した試験区では、細胞増殖が促進されることが明らかとなりました。
これらの結果から、酒粕圧力酵素分解物には皮膚のターンオーバーを促進する効果が期待され、化粧品などへの幅広い応用可能性が示されました。
2.テルペン酒のリラックス効果
白鶴酒造が独自に開発した「テルペン生産性酵母」は、一般的な清酒酵母には見られないテルペン類を生産する特長を持っています。テルペン類は、植物精油などにも含まれる成分として知られ、フローラルな香りや生理機能との関連が注目されています。
白鶴酒造では、テルペン類がもたらすリラックス効果に着目し、テルペン生産性酵母を用いて醸造した日本酒(テルペン酒)を飲用した際の心理・生理的影響について検討しました。
テルペン酒および対照として用いた純米酒を対象に、香りを嗅いだ際および飲酒後に、STAI質問紙(*)への回答、唾液の採取、閉眼時脳波の測定を行い、脳波データに基づく感性スペクトル解析を実施しました。その結果、α波帯域の相対比から算出した「覚醒度」および、β波帯域のデータを主成分分析して得られた「集中度」は、テルペン清酒において、香りを嗅いだときおよび飲酒30分後のいずれにおいても有意に低下する傾向が認められました。
このことから、テルペン酒は純米酒と比較して、より高い鎮静効果があると考えられました。
(*)「今の不安」と「もともとの不安の感じやすさ」を、それぞれ20項目ずつの質問で測定する自己記入式心理検査
おわりに
酒粕や酵母といった発酵素材に関する研究は、日本酒づくりにとどまらず、食品や機能性素材としての新たな可能性を広げる取り組みです。白鶴酒造はこれからも、発酵の力を科学的に解き明かし、その知見を活かすことで、未来の「おいしさ」と「健やかさ」に貢献する研究を続けていきます。
学会発表
- 加圧加温条件にて得られた酒粕酵素分解物の機能性について、日本農芸化学会大会(2006)
- 清酒及びリナロール含有清酒のリラックス効果、日本醸造学会大会(2006)