清酒処理後活性炭「サケ炭」の飼料化と資源循環モデル 酒蔵と畜産をつなぎ、未利用資源を地域価値へ変えるアップサイクルの取り組み

酒造りで生まれる「処理後活性炭」に新たな価値を見出す

清酒製造では、清酒の濾過方法の1つとして活性炭が広く使用されています。活性炭は微細な孔を多数持ち、酒中の色や香味に関わる成分を吸着することで、清酒の品質を安定させる役割を果たします。一方、処理に使用された後の活性炭は含水率が高く、堆肥化効率も低いため、再利用には手間やコストがかかるため、多くが産業廃棄物として処理されていました。

白鶴酒造では、この処理後活性炭を廃棄物ではなく、清酒製造から生まれる未利用資源として捉え直し、畜産用飼料「サケ炭」としてアップサイクルする取り組みを進めています。

サケ炭は、活性炭が持つ吸着特性に加え、酒造副産物ならではの栄養性と嗜好性を備えている点が特徴です。また、清酒処理に使用する活性炭は醸造用資材規格に適合した素材であり、飼料用途への展開においても安全性の面で活用しやすい利点があります。

1.悪臭成分の大幅な低減

サケ炭(処理後活性炭)を牛に給餌した試験では、畜産現場で課題となる糞由来の臭気に対し、低減効果(*)が確認されました。この試験では、兵庫県内の畜産農家において、飼料にサケ炭を混合して牛に給餌し、給餌前後の糞を採取して臭気成分を測定しました。
(*)活性炭を給与することによる

測定の結果、糞由来の代表的な悪臭物質である硫化水素およびメルカプタン類はいずれも給餌によって約9割低減しました。

さらに、サケ炭を給餌した牛の糞を含む敷材についても、臭気強度を評価しました。その結果、敷材中のにおい強度は、2%相当のサケ炭給餌で約20%、4%相当の給餌で約50%低下し、給餌量に応じて臭気が抑えられる傾向が確認されました。

悪臭の低減は、牛舎内で働く人の作業環境を改善するだけでなく、周辺地域との良好な関係づくりにもつながります。畜産業では、糞尿由来の臭気が地域との共生を難しくする要因となることがあり、消臭対策は経営上の重要な課題です。サケ炭のように、日々の飼料に少量添加する形で利用できる素材であれば、特別な設備投資を必要とせず、継続しやすい環境対策として導入できる可能性があります。

  • 処理後炭の給餌による硫化水素およびメルカプタン類の低減効果と、敷料中の処理後炭含有量とにおい強度低下の関係を示すグラフ

2.栄養性と腸内環境への可能性

サケ炭は、単に活性炭を含む素材ではなく、日本酒の濾過処理を経ることで清酒由来の成分を含む飼料原料となっている点に特徴があります。乾物換算で約20%の粗タンパク質を含むことが確認されており、栄養面からも飼料原料としての活用が期待されます。

こうした栄養面での特徴に加え、サケ炭の給餌が牛の健康状態に及ぼす影響についても検証を進めました。

肥育牛を対象とした腸内細菌叢解析の結果、サケ炭の給餌量の増加に伴い、腸内微生物の多様性(どれくらいの種類の微生物が存在するか)を示すα多様性指数が有意に上昇することが確認されました。腸内細菌叢の多様性は、飼料の消化性、免疫機能の安定化、さらにはストレス耐性など、動物の健康状態全体に影響を及ぼすことが知られています。本試験の結果は、サケ炭の給餌が牛の健全な腸内環境の維持を支援する(*)可能性を示しています。
(*)活性炭を給与することによる

  • 処理後炭の給餌量と腸内細菌叢のα多様性指数の関係を示すグラフ

まとめ

サケ炭の取り組みは、清酒製造で発生する処理後活性炭を、堆肥原料や産業廃棄物として扱うだけでなく、畜産飼料という新たな用途へ転換するアップサイクルの事例です。白鶴酒造では2021年から飼料化に向けた検討を開始し、兵庫県内の畜産農家や飼料会社との連携を通じて実証を重ね、2022年12月にサケ炭の販売を開始しました。

さらに、サケ炭を給餌した牛の糞を堆肥化し、酒米づくりへ活用することで、酒造りと畜産・農業をつなぐ循環型モデルへの展開も期待されます。これにより、「酒造り→サケ炭→養牛→牛糞堆肥→米作り→酒造り」という農醸連携の循環が形成される可能性があります。本取り組みは、廃棄物削減、畜産現場の環境改善、酒米づくり、地域連携を一体的に結びつけるものであり、産業を越えたサステナブルな価値創出のモデルとして発展が期待されます。なお、サケ炭に関する技術は2025年7月に特許第7712328号として登録されています。

酒造副産物を地域の畜産資源として活用し、さらに堆肥を通じて米づくりへ戻すこの仕組みは、単なる廃棄物対策にとどまりません。酒蔵、飼料会社、畜産農家が連携することで、それぞれの現場が抱える課題を結びつけ、地域全体で資源を循環させる実践的なサーキュラーエコノミーの形を示しています。今後、サケ炭の利用が他の酒蔵や地域へ広がれば、日本酒業界の環境負荷低減と、畜産業における持続可能な飼養環境づくりの双方に貢献することが期待されます。

受賞

  • 第9回SXアワード 財務大臣賞「酒蔵×畜産 地域企業連携による『サケ炭』アップサイクルモデル」
    一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)

    宍倉 竜樹

学会発表

  • 日本酒処理後活性炭の畜産飼料としての評価、日本醸造学会大会 (2023)

    宍倉竜樹、松倉大樹¹、窪寺隆文、浅井拓也、明石貴裕 (¹兵庫県立農林水産技術総合センター 北部農業技術センター)

  • 黒毛和種肥育牛への清酒処理後活性炭給与による糞臭及び腸内細菌叢への影響 (2025)

    宍倉竜樹、千住浩之、浅井拓也、明石貴裕

  • Utilization of used activated carbon from sake processing as an unutilized resource for animal feed, 日本農芸化学会大会 (2025)

    宍倉竜樹、千住浩之、浅井拓也、明石貴裕

登録特許

  • 特許第7712328号、飼料用組成物及びその製造方法、飼料、家畜への給餌方法、並びに家畜の飼料に対する嗜好性向上方法

    発明者 宍倉竜樹、窪寺隆文、明石貴裕