酒米の研究開発
酒造りは、米づくりから始まるといわれます。白鶴酒造では、酒質を決める重要な要素の一つである原料米について、酒造好適米(酒米)の品種から栽培技術まで、多岐にわたる研究開発に長年取り組んできました。
なかでも、独自品種である「白鶴錦」の開発と、環境に配慮した酒米増収技術の研究は、これからの酒造りを支える重要なテーマです。
1.白鶴錦の開発
白鶴錦は、「酒米の王者」と称される山田錦に並ぶ品質を目指し、白鶴酒造が独自に開発した酒造好適米です。1995年に育種研究を開始し、山田錦の母にあたる「山田穂」と、「渡船2号」(父にあたる「短稈渡船」は現存せず、近縁種である「渡船2号」を選抜)を交配することで誕生しました。
これまでも山田錦を親や祖先とする育種は行われてきましたが、山田錦の“兄弟”にあたる品種を育種する試みは、本研究が初の事例となります。10年以上にわたる選抜育種を経て、2007年に「白鶴錦」として品種登録されました。現在では、山田錦に匹敵する酒造適性を備えた、白鶴酒造を代表する自社開発酒米として位置づけられています。
白鶴錦は、粒が大きく、麹造りに重要とされる心白の発現が良好であることに加え、精米時に割れにくい特長を持ちます。また、日本酒の雑味につながるタンパク質や脂質が少なく、すっきりとしたクリアな酒質を実現します。
さらに白鶴酒造では、これらの特性を科学的に解明するため、遺伝子解析技術やメタボロミクス解析を活用し、米の遺伝的特性と酒質成分との関連性についても研究を進めています。
2.酒米増収技術の開発
酒米の安定供給と持続可能な農業の実現を目指し、白鶴酒造は京都大学大学院農学研究科との共同研究により、メタノールを栄養源とする微生物(メタノール資化性菌)を利用した酒米の増収技術の研究に取り組んできました。
その成果の一つとして、実圃場にて出穂後の稲にメタノール資化性菌を1回葉面散布したところ、酒米の単位収量および登熟歩合が向上することが明らかになりました。本研究は、実圃場レベルで酒造好適米の増収効果が確認された初めての事例です。
この増収効果は死菌体でも発揮されることから、安全性が高く、環境への負荷が少ない点も大きな特長です。
本技術は、酒米栽培の省力化や収量向上にとどまらず、将来的な食料の安定生産という社会的課題への貢献も期待されています。
受賞
- 醸造学会若手シンポジウムベストポスター賞(2014)、メタボロミクス技術による清酒のおいしさへのアプローチ
- 日本醸造協会技術賞、メタボロミクス技術を用いた酵母菌株・原料米品種による清酒の酒質特性の解析
論文
- 新山田穂1号の品種特性、日本醸造協会誌91 巻9 号633-639 (1996)
- 独自酒米『白鶴錦』の開発、日本作物學會紀事78巻2号281-282(2009)
- メタボロミクス技術による白鶴錦の酒質特性の解析、灘酒研究会会報71号6–8(2014)
- GC/MS を基盤としたメタボロミクス技術を用いた酵母菌株・原料米品種による大吟醸酒の酒質特性解析、日本醸造協会誌112巻12号827-835(2018)
- 酒造好適米の特徴とその品種特性、生物工学会誌98巻1号32(2020)
- 酒米品種「白鶴錦」の遺伝的特性、日本醸造協会誌116巻5号339-346(2021)
- Methanol bioeconomy: promotion of rice crop yield in paddy fields with microbial cells prepared from natural gas-derived C1 compound, Microb Biotechnol., 14(4), 1385-1396(2021)
- Rice grain structural characteristics of sake rice cultivar Hakutsurunishiki for daiginjo-shu brewing, Biosci. Biotechnol. Biochem., 88(4), 445-452(2024)
- 酒米品種「山田錦」、「白鶴錦」および両品種の近縁祖先品種・系統の全ゲノム情報を用いた比較解析、日本醸造協会誌119巻8号439-455(2024)
- 酒造用米中の脂質と無機元素の分布を見る、バイオサイエンスとインダストリー83巻6号442-443(2025)
- 酒造用玄米と米麴の質量分析イメージング、バイオサイエンスとインダストリー83巻6号468-469(2025)
学会発表
- 新山田穂1号の品種特性(第2報)、日本醸造学会(1995)
- PAPD法を用いた酒米品種間の類縁性評価、日本生物工学会(1996)
- 渡船2号の品種特性、日本醸造学会(1997)
- 山田穂・渡船の交配新品種の特性、日本醸造学会(2001)
- 山田穂、渡船の交配新品種『白鶴錦』の特性、日本醸造学会(2005)
- 山田穂・渡船の交配新品種「白鶴錦」の特性について、日本醸造学会(2006)
- 白鶴錦の特性、日本醸造学会(2007)
- 白鶴錦の醸造特性評価、日本醸造学会(2008)
- 白鶴錦の特性、日本醸造学会(2011)
- 白鶴錦製成酒の酒質特性の解析、日本醸造学会(2013)
- メタボローム解析技術を用いた米品種による清酒の酒質特長の定量的把握、日本生物工学会(2013)
- メタボロミクス技術による清酒のおいしさへのアプローチ、日本醸造学会(2014)
- 白鶴錦の酒質特性とその要因の解析、日本醸造学会(2015)
- メタボロミクス技術による清酒のおいしさへのアプローチ、関西醸造研究セミナー(2015)
- 白鶴錦の遺伝的特性、日本醸造学会(2016)
- 清酒のおいしさの解析に関する研究、醗酵学懇話会(2016)
- イメージング質量分析を用いた清酒における麹米品種の特性解析、日本生物工学会(2018)
- メタボロミクスによる白鶴錦の酒質特性の解析、酒米懇談会(2018)
- 白鶴錦の解析、兵庫バイオインダストリー研究会(2018)
- メタボロミクス技術を用いた酵母菌株・原料米品種による清酒の酒質特性の解析,イメージング質量分析を用いた清酒における麹米品種の特性解析、関西醸造研究セミナー(2019)
- 全ゲノム解析による酒米品種「白鶴錦」の遺伝的特性、日本醸造学会(2019)
- Imaging lipidomics and metallomics of brown rice cultivars used for sake production、Metabolomics(2024)
- Characteristics analysis of sake rice cultivar Hakutsurunishiki for daiginjo-shu brewing、Metabolomics(2024)
- 大吟醸酒醸造に資する酒米品種「白鶴錦」の特性解析、メタボロームシンポジウム(2024)
登録特許
- 特許第7168160号、米の収量を増加させる方法、米の栽培用植物体を栽培する方法、米の収量増加用組成物及び菌体細胞壁を含む組成物又は死菌体