酒博士 小泉 武夫先生が語る“酒噺”
Vol.1「麹(こうじ)の発見と、麹の名前」

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今回は『麹』についてのお話です。麹は日本酒を造るためには不可欠のものです。
ではなぜ麹が必要なのか、麹とは何かをこれからご説明しましょう。

まず、ぶどう酒の原料はぶどうと水です。ぶどうは甘く糖分があるため、自然界にも生育する酵母がその糖分を食べ、アルコールと二酸化炭素に分解します。一方日本酒は、麹と蒸し米と水を原料に造られますが、原料の米の主成分はデンプンです。デンプンを酵母は食べられません。

そこでデンプンを糖に変えてやる必要があるのです。その役目を果たすのが麹菌で、持っている糖化酵素でデンプンを糖に分解するのです。その麹菌を蒸し米に増殖させたものが麹というわけです。では麹による酒造りはいつ頃から始められたのでしょうか。

奈良時代中期に書かれた『播磨国風土記(はりまのくにふどき)』には、「神様に捧げた蒸し米にカビが生えた。それで酒を醸した」という風なことが書かれています。つまり、米にカビが生えたものを〝かびたち〟といい、これが麹を使ったお酒の始まりというわけです。この〝かびたち〟が時代と共に語源変化し、〝かむたち〟から〝かむち〟、明治時代には〝かうじ〟と呼ばれ、いまの〝こうじ〟になりました。

したがって、日本の麹は日本で発見され造られたもので、現在の日本酒に繋がっているのです。

物の本には、麹による酒造りは、朝鮮半島から〝須須許里(すすこり)〟という人が伝えたとか、中国大陸から入ってきたとか様々な説が載っていますが、それはまったく醸造学的にも否定することができます。

もし韓国や中国の酒造りを受け継いでいるとなると、麹はクモノスカビで、しかも餅(もち)麹タイプになります。韓国や中国では今もこの麹で酒を醸造しています。

ところが、この麹は今の日本の散(ばら)麹タイプの麹とはまったく違うものですから、答えは明白です。そういう醸造学的見地からも、また、麹の発祥の歴史や、その伝統的な酒造りからも、日本の麹造り、酒造りは日本独自の発生形であり、日本酒は日本民族の酒であるといえるのです。

いかがですか。今宵の日本酒の晩酌が、少し味わい深いものになりそうですね。

文:発酵学者 小泉武夫

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