麹室(こうじむろ)に引き込んだ蒸し米には、 研鑽を積みかさねてきた蔵人が、 神経を研ぎ澄まし、丁寧に種麹を振っていきます。 酒米に植えられた麹菌は、 切返し、盛り、仲仕事、仕舞仕事といわれる 段階を経ながら麹蓋(こうじぶた)の中で繁殖していきます。
その一連の作業の間、蔵人たちが、 刻一刻と変わっていく状況に合わせながら 昼夜を問わず数時間おきに 積み替えを行い、温度のむらをなくします。 時には、繁殖が急に進むこともあるので、 油断はできません。
その努力が報われるのが、 順調に麹菌が生育することで 麹から放たれる甘い香りであり、 酒米へと美しく広がった菌糸が描く 花のような美しさです。 つくり手は、その甘美な瞬間から 今年の酒米の性格を感じ取り、 理想の味へと向けたこれからの工程を、 緻密に構築していきます。